人類史上稀に見る急成長の裏で Mark Karpelès(マルク・カルプレス)氏が感じた事

人類史上稀に見る急成長の裏で Mark Karpelès(マルク・カルプレス)氏が感じた事

2018年2月7日、Mt. Gox(マウント・ゴックス)の元 CEO マルク・カルプレス氏との対談をしました。仮想通貨が世に認識されたきっかけともなった、あの事件の裏側を聞きました。

イノベーター

篠原
マウントゴックスはユーザーとしてずっと使っていました。当時は日本人の利用者が少なかったです。会えて光栄です。

カルプレス
日本の顧客が少ない割にはすごく日本で話題になりました。

篠原
あの時の顧客がコインチェックやビットフライヤーのメンバーになっています。あの時の顧客が今の業界を作っています。完全にイノベーターでしたね。

いきなり脱線する2人

篠原
まずマルクと話したかったのはやっぱり、アニメの話。哲学的な日本のアニメが好きなのですが、1番好きなのは「けいおん!」。なぜかというと、あれは日本の俳句だと思っています。五七五、古池や蛙飛び込む水の音。みんなが緑の蛙をイメージします。これは日本の文化で長く培われたコンテキストがあるから、蛙は緑だとみんなが思っているから、五七五で絵が描けてしまう。それが俳句のすごいところだと思っています。
「けいおん!」もまさにそれと一緒です。夕焼けの卒業前の2月の教室。制服を着て話をしているところに夕日が差し込む時にどんな気持ちになるのかというのは、日本の高校生にしか本来分からないものです。これが文化的にものすごくハイコンテキストで価値が高いと思っています。ハリウッド映画みたいにビームが出て戦うとかではなく、そんなに分かりやすくないですが日本的で奥が深い。だから「けいおん!」が好きです。

カルプレス
「けいおん!」にそこまでのことはちょっと(笑)。最初だけ少し観て、涼宮ハルヒの流れから、学校の日常的なものは結構感じました。

篠原
スゴイのは第1期はただの萌え萌えアニメ。第2期もそうですが、涼宮ハルヒで成功したからお金もあるし、何を作っても観てもらえるという自信があったから、すでに「けいおん!」はアートのレベルになっていました。萌えアニメを1期放送して、続く2期では19話まで同じく萌えアニメ。でも2期の20話はすごく感動する話。これは1期と2期の半分以上を使って長いストーリーの前振りをして、2期の20話にフォーカスしています。「けいおん!」は2期の20話のためのアニメです。ただの萌えアニメをやって、最後の最後ですごくいい話をするというのが「けいおん!」のすごいところ。それも日本的な作品だと思っています。

カルプレス
勉強になりました(笑)

篠原
「魔法少女まどか☆マギカ」も。

カルプレス
「まどマギ」。複雑な裏のある話は結構気に入っています。

篠原
「まどマギ」も「けいおん!」と同じようにコンテキストがあると自分は思っています。あれはどう考えても「カードキャプターさくら」のオマージュ。しかも魔法少女と言っているから、本来の「カードキャプターさくら」のターゲットは子供。女の子向けのもの。「まどマギ」は僕たち世代のおっさんのための美少女魔法アニメとして始まっています。ここが本当にすごくて、みんなは「カードキャプターさくら」みたいにのほほんと日常生活を楽しんで、変身して悪いヤツをやっつけるというのをイメージして観始めているけれど、実際は全然違っていて、裏切る。いつまでも変身しないとか、メッチャ暗い話だとか。かわいい女の子が出てくると思いきやすごく暗い話。その裏切りは「カードキャプターさくら」を期待して観ないと始まらない裏切りなので、すごくコンテキストが深い。もしいきなり20年前に「まどマギ」が出ていても何も評価されない。

カルプレス
そこが難しいですね。

篠原
そこがやっぱりアート。コンテキストを踏まえているのが現代アートの流れだと思っています。ピカソみたいな作品に出会ったと思って感動しました。後は何かな。「少女革命ウテナ」「エヴァンゲリオン」「交響詩篇エウレカセブン」。

カルプレス
一般的なものでいくと、「Re:ゼロから始める異世界生活」とか。結構、オススメできます。

篠原
新しいのですね。Netflixのマイリストに入れてまだ観ていませんでした。オススメは「僕だけがいない街」。去年観た中では1番面白かった。

カルプレス
話が深いものはそれほど一般的にはならないですね。

篠原
「攻殻機動隊」のような深いものはやっぱり面白い。勉強になるというか、インスピレーションをもらえます。

カルプレス
アニメのおかげで日本語を覚えました。初めは「エヴァンゲリオン」ですね。後は「幽☆遊☆白書」。あまり有名ではないかもしれないですが「王ドロボウJING」。他には「BPS バトルプログラマーシラセ」。

篠原
アニメ好きは正義ですよ。アニメ好きに悪い人はいない。

カルプレス
アニメには伝えようとしているメッセージや価値観があります。それを理解すると面白いですね。

篠原
そうそう、まさにそう。

本題・・・

先日、AbemaTVに出演されましたね。

カルプレス
AbemaTVに出た時にちょっとびっくりしました。民事再生の話になっても誰も止めてくれなかった(笑)。「伝わっているかな?分からないよね」と思いながら、自分では止められないから「誰か止めてくれないかな。大丈夫かな」と思っていました(笑)。

マウントゴックスの事件が起こった時に、金融庁や警察当局から何かアプローチはありましたか?

カルプレス
金融庁は「会わない」という感じでした。そもそもマウントゴックスを運営している頃から金融庁とはずっと話し合いをしていました。ビットコインについて話し合いをしようとしたのですが、事件があったすぐ後はこちらもそれどころではなかったですが、金融庁から何か連絡があるようなことはなかったですね。

篠原
金融庁管轄の事件という認識はなかったんでしょうね。

カルプレス
金融庁に最初聞いた時、ビットコインが関わるかを聞いたら「多分関わらないだろうけど、こちらからは答えられないのでノーとは言えない」ということでした。金融庁はイエスだったら言えるけれど、ノーの場合は回答できないということのようでした。
金融庁とは長い間やり取りはしていて、ビットコインや取引所について説明をしていました。金融庁とも相談しながら、マウントゴックスは結局何をすればいい事業にできるかを考えていました。当時は金融庁もまだビットコインのことをよく分かっていなかったですし、日本でも利用者がほとんどいないのであれば、やる意味もあまりないでしょうし。

日本で昨年、仮想通貨の法律ができましたが、その過程で行政側から相談をしに来たことはあるのでしょうか?

カルプレス
全くないですね。

カルプレスさんに聞けば、法的にカバーすべきことのヒントもあったように思えます。

カルプレス
マウントゴックスであった出来事は、自分ではもう二度と思い出したくないんです。相談に来て頂ければ、全然応じますけれど(笑)

二度と思い出したくないというのはどういう意味ですか?

カルプレス
マウントゴックスには色々な問題がありました。アメリカやEUなど色々な政府機関と戦いながらやっていました。元々自分は技術者ですが、マウントゴックスの代表者として政府や銀行、弁護士など、朝から晩まで毎日会議ばっかりで、実際の技術の仕事をする時間がなくなっていってしまったことが1番の問題でした。もし今後、他に何かするとしたら、代表者や面倒なことができる人を別に立てたい。誰か他の人にやってもらう必要があったと思います。
それと、日本だとコネクションも必要だと思います。もし今、取引所を作ろうとしたら銀行から嫌だと言われます。金融庁の登録もある程度、顔がきかないと話にならない。かなり複雑なところがありますね。
ICOをやろうとして金融庁に話を聞きに行っている人もいますが、金融庁はICOをやるには仮想通貨交換業者として登録する必要があるとしています。現在はICOの発行部分ではなくて、ICOの販売だけがカバーされています。発行についてはアメリカのように別で規制がくると思います。日本も何もしないというわけにはいかないでしょう。

事件当時、海外の同業者や関係者から何らかのアプローチはありましたか?

カルプレス
全くないですね。

ご自身から誰かに連絡を取ったことはありますか?

カルプレス
こちらから連絡を取っても話を聞きたくないだろうと思いましたし、迷惑がかかる可能性もあったので取りませんでした。とりあえず目の前にすごい山があったので、それを何とかしなければいけない状況でした。

当時はかなり孤独な状況だったんですね。

カルプレス
今、こうして話ができるようになったのは色々と事情が変わったからです。ビニックが逮捕されて。

ビニック容疑者が逮捕されて、周りの見方は変わりましたか?

カルプレス
特に海外が変わりましたね。名前は言えないですが、色々と連絡が来るようになりました。例えば、「取引所を運営するにあたって、マウントゴックスのようにならないようにどういう手順でやれば安定して、安心できるものを作れるのか」という相談は来ました。

マウントゴックスを運営して当時や事件後のことは記録に残しているんですか?

カルプレス
逮捕されてからのことは全部メモしています。ノート10冊くらいのメモがあります。当時のことはミーティングの記録ややり取りは残っています。自分が微妙なニュアンスを表現できるのは日本語で、フランス語で言いたいことを言えなくなってきました(笑)

人類史上まれに見る急成長を経験して

篠原
起業するとやらないといけないこともいっぱい出てきます。開発にもっと集中したいけれど、それ以外の仕事が増えてくる。でも人を雇って仕事をお願いするのも多分、元々エンジニアだから得意ではなかったと思います。同じエンジニアとして、そこは自分もよく分かります。
マウントゴックスは、スタートの時に1人で始めて、気付いたら大きくなったというパターンなのか、他に一緒にやるパートナーがいたのでしょうか?

カルプレス
マウントゴックスをやり始めたのは2011年3月くらいで、その時は約3000人の顧客でしたが、6月には6万人になりました。いきなり顧客が増えすぎて、最初から無理だと思いました(笑)。だから人を雇おうとしていました。

篠原
ビットコインの取引所を引き継いだら急激にお客さんが増えて、もう無理と。

カルプレス
最初は1人。

篠原
それは孤独な戦いでしたね。急にユーザーが増えてしまった。日本のオフィスで日本人を雇ったんですか?

カルプレス
日本に来ている外国人を雇いました。カスタマーサポートが1番混乱していたので、メールのやり取りで、ビットコインやシステムのことが分かったらある程度誰でもできるので。簡単な作業でどうしても人が足りないから、そういう人を雇ってどんどんチームが増えました。

篠原
エンジニアも増やしたんですか?

カルプレス
エンジニアも増やしましたが、優秀なエンジニアを探すのはかなり難しかったですね。1番いいチームは2013年中旬から末くらいにできつつありました。それでも忙しいからチームの引き継ぎの時間も作れなかった。社内も色々と問題はありました。

篠原
忙しすぎてチームをスケールできなくなることはありますね。急成長するスタートアップに組織の問題はつきもの。色々なステージの変更があったと思いますが、恐らく歴史的に見て、これほど急成長した産業はなかったと思います。普通のスタートアップでも大変なのに、普通のスタートアップ以上にチームのスケーリング、経営者の考え方のシフトやテクノロジーについて他の人に説明しないといけない。銀行口座を作るにも、わざわざ説明しないといけない。そういうのが全部、ファウンダー1人しかいなかったと思うので、本当に自分でしないといけない状態で、全部がスタックするという状況は非常によく分かります。自分もエンジニアとして色々なスタートアップをやってきて、それほど大きな規模でやっていなくてもトラブルは何度もあったので、それがいかに大変だったかは分かります。しかも犯罪にまで巻き込まれていく辛さ。
ただイノベーションを起こそうとしていた、いやイノベーションを起こそうとも思っていなくて、ただ楽しく日々この技術はすごいと思ってやっていただけだと思いますが、そこに急に人が増えた。

カルプレス
できるとは思っていましたが、結局できませんでした。

篠原
それが本当だと思います。あれほど急成長することは歴史上ないことだから、普通に1人の人間ができる範囲がどこまでかはやってみないと分からないわけです。人類で初めてやった人だから、どこまでできるか分からない。最初のペンギンはジャンプインしたらアザラシに食べられるのは当然だと思います。そのチャレンジから学んで、経験から次の人が続くということが本当に必要です。今日話を聞いて、最初に飛び込んだ勇敢な人から色々学べました。

カルプレス
6万人になった後の2年間で100万人までユーザーが増えました。2013年11月だけで13万人くらい新規の登録がありました。そろそろ安定すると思っても、全然しませんでした。

篠原
当時はビットコインを知っている人は全然いませんでした。自分もシンガポールでビットコインに出会っています。日本でビットコインを知っている人と知り合うことはありませんでした。だからブロックチェーンの説明を書かないといけないと思って、日本語に訳して説明文を書いていたくらいでした。
当時はまだ誰もやったことがないから、どういうトラブルが起こるか分からないし、セキュリティーリスクもどこまで何が危険かも分からない。今のコインチェックはみんなのある程度のノウハウが貯まった上での今回の出来事ですが、当時は本当に盗まれるということがどう起こるか分からないし。かなり大きなムーブメント、きっかけを作った人だと思っているので、その時の内部の話を聞けたのは光栄です。

カルプレス
こちらこそありがとうございました。